仕事を辞めて本当によかった。
過労死、長時間労働が話題になっている。
自分は東京のテレビ局で照明さんとして働いていた。
倍率はかなり高く、北海道の専門学校からそこに受かるのは至難の業だったが、奇跡的に受かった。嬉しかった。
だけど、3年半で辞めた。
とにかく辛かったのだ。同期は一年目で半分辞めた。最終的には自分達の世代は全員辞めた。
月360時間〜380時間ぐらい働いていた。
過労死しても不思議ではない。
激務に加え、毎日ひたすら怒られる。
照明の世界は、見て盗めの職人体質だ。
給料は悪くなかったし、やりがいはあった。
だけどこのままじゃ「自分の人生を生きられない」と思った。
忙しすぎてあっという間に年を取って死んでいくのが怖かった。
このままここにいて、死ぬときに残るものはなんなのだろう。
忙しく働いたことで埋め尽くされた人生は嫌だ。
そんな思い悩む日々を生きていた中で出会ったのがこの本だった。
世界一周は150万で行ける。
実際に行った人の体験談がたくさん乗っていた。
「世界一周」
人生に絶望していた僕に希望を与えるには十分な言葉だった。
世界一周なんて夢のまた夢だと思ってた。
だけど、こんなに簡単に行けるなら、行きたい。
日本人という恵まれた環境にせっかく生まれたのに、健康に生まれてお金も貯めれるのに、広い世界を見ないで死んでいくのは、もったいないと思った。
それでも一歩踏み出せないでいた。
社会のレールから外れるのは怖かった。
仕事もできるわけでもないし不器用な自分が、仕事を辞めて大丈夫なのか。
悶々としていた時、身近な人が死んだ。
人生を改めて考えた。
人は、いつか死ぬ。
お金を貯めて、ぼくは世界一周に出た。
せっかく仕事を辞めるんだから「人生の夏休み」を取ろう思った。
その旅で僕は多くの物を得て、同時に多くの物を失った。
旅は楽ではない。本当の自分がむき出しになる。自分の弱い部分、好きな部分、醜い部分、色んな自分が顔を出してくる。
世界はこんなにも残酷で素晴らしいのかと、肌で感じられた。
帰って来てからも運よく仕事が見つかった。
シェアハウスに住み、今の嫁とたくさんの友達と出会った。
労働時間は170時間〜190時間くらい。休みも有給も自由に取れる。
今はとても、とても幸せだ。
もしあの時仕事を辞めていなかったらどうなっていたのだろうと思うと、ゾッとする。
あの狭い狭い世界で少しの喜びを求めて自分を無理やり納得させながら生きていたのだろう。
もしかしたら過労死していたかも知れない。
仕事が楽しいからたくさん働きたい人はいいけど、そうでない人に強制するのはよくない。
だが実際には日本の社会はそういう場面がある。無言の圧力というやつだ。
もし辛かったら、辞めればいい。
会社を辞めるのは勇気がいることだ。
嫌いな先輩にもう会わなくていいのは幸せだが、自分を育てて信頼してくれた先輩を裏切る形になってしまうのは辛い。
だが、辞めても絶対になんとかなるし、捨てることで得られる幸せは、間違いなくある。
自分が幸せになることが、周りの人への恩返しだと思った。
あの日、あのまま小さな幸せにしがみついていたら、今の本当の幸せにはたどり着けなかった。
嫁との間に、子供が出来た。
あの日、仕事を辞めて、本当によかった。